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法学部
【活動レポート】勝 聖君 (国際企業関係法学科2年)

「やる気応援奨学金」リポート(50) ベトナムで法の国際協力体験 JICAの法整備支援計画で

はじめに

2008年8月、私は「やる気応援奨学金(短期海外研修部門)」を利用して、ハノイにある国際協力機構(JICA)のベトナム法整備支援プロジェクト事務所でインターンシップを行った。この事務所でのインターンシップを通じ、法律を通じた国際協力を体験することが出来た。今まで私は法曹と国際協力の2つが結び付いた仕事があるとは全く考えたことはなく、ここでの体験は私の国際協力に対する考えを変えることとなった。

法整備支援とは

法整備支援とはどのような支援だろうか。法整備支援とは、「発展途上国が行う法整備のための努力を支援する国際協力の仕事」であり、あくまでも発展途上国側が主体となる支援であるとされている。つまり、先進国が発展途上国の文化や歴史などを全く考慮しないで、単に法律を制定して放置していくのは法整備支援ではない。また、支援の範囲もただ単に法律の制定のみを支援するのではなく、その先の法改正や実際に法律を運用する法律家の養成も、日本の法整備支援の一環として行われている。これは、たとえ法律が制定されたとしても、その法律がうまく運用されなければ、結局その法律が有名無実となってしまうからである。
このような法整備支援は、学者や弁護士などが行う個人的なものは古くから存在していたが、東西冷戦後に旧社会主義国が資本主義に移行する際に、自国の法律を資本主義に合致する形に改正したいという要望があり、1990年代からは国が主体となり、その件数も増大した。このほかにも、発展途上国での法治主義やグッド・ガバナンス(良い統治)の充実という目的もある。法治主義や良い統治が充実することとなれば、その国の国民の幸福につながるからである。
ベトナムにおいては、1986年から始まったドイモイ政策(刷新政策。経済の緩やかな資本主義を進める政策)の一環として、多くの国々が法整備支援を行っている。日本は主に民事分野を担当しており、今回のインターンシップでは、国家賠償法に関する会議にも参加させていただいた。
日本政府は、建設しても無駄になることが多い「ハコモノ支援」から、人材育成や制度改革を中心とした「知的支援」へのODA大綱の路線変更、法律とその運用機関がしっかり機能することにより保障される取引の安全を確保してほしいという経済界からの要望、また各国政府や国際機関による法整備支援の活発化などの理由から、この法整備支援に力を注いでいる。
またベトナムなどの発展途上国政府も、日本に対しては、明治維新に代表されるように、西洋法を採り入れ、それを独自に発展させてきた経験があることや、日本の支援が単に法律を作成して終わりということではなく、中長期的に実務への定着を目標としていることなどの理由から、日本へ法整備支援を要請することも多い。
現在の日本のベトナムでの法整備支援は、裁判官、弁護士、検察官の法曹三者が現地に派遣され、法案の作成支援、弁護士会設立支援、裁判における判例制度の確立などの支援を、司法省、裁判所、検察院、ベトナム国家大学ハノイ校に対して行っている。

JICAベトナム事務所訪問

初めの数日間はハノイ法整備支援室において、ベトナムの法制度や司法制度などに関する講義を受け、20日にハノイ市内にあるJICAのベトナム事務所を訪れ、日本のODA活動に関するお話を伺った。JICAは主に技術協力を行う政府機関であり、ベトナムにおいては、1992年から専門家派遣などの活動を開始している(なお2008年10月1日付で、有償資金協力を行う国際協力銀行(JBIC)、外務省の無償資金協力部門を合併させた新JICAが発足した)。

ハノイ市内の様子

事務所では、担当の小林さんから、JICAの活動はODA、つまり国民から集めた税金を発展途上国の発展のために用いているために、国民からみて納得の行く支援でなくてはならず、たとえ発展途上国のためになるとはいえ、国益を失する援助はなるべく避けるようにしている、という話を伺った。要請国のニーズに合わせることが先決であるが、例えばある農作物の育成促進の援助をした場合、ブーメラン効果で国産のその農作物が売れなくなるというような、ネガティブな影響も考慮した上で、発展途上国に援助を行っているという。
また、「日本のODAによる支援において、工事の発注が現地企業ではなく、日本企業であることが多く、結局のところ、支援国のためではなく、日本の企業のためになっているのではないか(現に、日本の支援で行われているという、現地で見掛けた高速道路の建設現場には、日本の建設会社の名前があった)」という、日ごろから疑問に思っていた日本の支援の在り方を質問したところ、「確かに問題点ではあるが、発注自体は日本企業であっても、現地で採用される作業員もいるため、技術支援になっている面がある」という回答を頂いた。
この事務所訪問では、国が行うからこそ出来る支援もある一方で、国であるが故に限界も存在することを改めて感じた。

裁判傍聴

翌日はハノイの人民裁判所にて、刑事裁判を傍聴した。私は日本での裁判を傍聴した経験がなかったので、法律や制度は違えどこれが初めての裁判傍聴となった。
傍聴予定であった裁判は、未成年者を含む5、6人の被告人がある男性を殺害したという事件であったが、未成年である被告人の保護者(ベトナムでは「合法的な代理人」と呼ぶ)が出廷していないという理由ですぐに閉廷したため、別の裁判を傍聴した。この裁判も殺人事件の裁判で、男性の被告人が、知人の女性(被告人)から、ある男性にののしられ、レイプされたと言われたのを信じ、その仕返しのために、逃げる男性を執ように追い掛け、自転車のチェーンのような物で殴るなどして殺害したという事件であった。
裁判の様子を述べる前に、日本とベトナムの裁判制度や手続きの違いを簡単に説明しようと思う。裁判制度では、日本が三審制を導入しているのに対して、ベトナムでは原則として、上告のみの二審制であり、その上に、判決の効力発生後に、最高人民裁判所長官や最高人民検察院長官(最高裁判所長官、検事総長に相当)が法令適用の誤りがあると判断した際に行われる監督審と呼ばれるものがある。また、日本では2009年5月から運用が始まる裁判員制度と類似した参審員制度が導入されており、通常は裁判官1人と参審員2人で裁判が行われる(傍聴した裁判は、殺人という重大な事件のため、裁判官2人と参審員3人で行われた)。
手続きの面では、日本では原則として検察と弁護側が証拠を集め、裁判官は両者の意見を聞いた上で判決を下すという弾劾主義であるのに対し、ベトナムでは裁判官と検察が分かれているとはいえ、裁判官が検察の捜査を追認しているという点において、実質的に糾問主義となっている。更に、裁判官は公判前に検察側が提出した記録をすべて読んだ上で公判を行っているため、判決が検察側に偏り、被告人に予断を抱くことが多い。また起訴状一本主義を採用しておらず、日本で言う起訴状と冒頭陳述が混ぜ合わさったものになっている。

大法廷の様子

私たちが入室した時には、裁判官並びに参審員による被告人への質問が行われている時で、裁判官が被告人に対し、詰問に近い形で、「レイプされたのならば衣服が乱れているはずではないか」、「(被告人は)殺してはいないと主張しているが、殴った人が被告人しかいない以上、被告人は被害者の死に対する責任を負うべきではないのか」などと質問していた。
被告人への質問の後、証人が召喚され、当時の状況について覚えている範囲内で供述したが、裁判官からは証人の発言から真実を探ろうという姿勢よりも、証人の発言と調書の内容を確認し、それによって被告人に真実を語るようにと、圧力を掛けているような印象を受けた(ベトナムの裁判では、「真実の追求」に重点が置かれ、被告人の黙秘権は認められておらず、真実を述べることが被告人や証人の義務となっている)。
証人への質問の後、被害者の父親に賠償金についての質問がなされた。日本では付帯私訴(刑事裁判において賠償金などの民事の手続きを同時に行うこと。日本では刑事と民事は厳格に分けられている)の手続きがないためこのような光景は見られないが、ベトナムでは、「刑事事件における民事問題の解決は、刑事事件の解決と同時に行うことが出来る」と刑事訴訟法で定められているので、被害者の父は、「埋葬のための合理的な費用」などの請求をしていた。
いったん休廷した後、検察官から求刑が言い渡され、男性の被告人は終身刑、女性の被告人は懲役5~10年を求刑された。その後に初めて被告人の弁護人が口を開き、まず男性の被告人の弁護人は、検察の起訴事実には同意した上で、本人の学歴が低く、法律を知る機会が非常に少なかったことにかんがみて、減刑をするようにと主張し、また、女性の被告人の弁護人は、男性の弁護人と同じように主張した後、彼女は一家の大黒柱であり、老父母を養っていかねばならないこと、確かに被告人に被害者を懲らしめるように頼んだが、殺しまですることは望んでいなかったので減刑するようにと主張した。弁護人の出番はこの場面だけであり、日本とは違い、検察が提示した起訴事実、論点への反論は全くなかった。
弁護人が意見を表明した後、被害者の父も検察の求刑に対して意見を述べていた。日本では被害者の遺族が検察の求刑に対して意見を述べることは出来ないので、これは非常に驚いた。
これらの意見・反論に対して返答する形で検察が意見を述べた後、被告人に最後の主張を行う機会が与えられ、両被告人は刑を減軽してほしい旨を主張し、判決は翌日に言い渡すと裁判長が宣言して閉廷した。
今回の傍聴では判決まで聞くことは出来なかったが、ベトナムの裁判の判決は日本よりも非常に早い。いったん閉廷した後、15分くらいで再び開廷してその場で判決を行うケースが多いと聞く。これは先にも述べたが、裁判官は公判前に読んだ検察からの資料を基に既に判決内容を決めてしまっていることが多いからである。今後の法整備支援において、ベトナムのこのような司法制度がより改善されることを願った。

ハノイ法科大学学生との交流

27日にはハノイ法科大学との学生と交流を行った。このハノイ法科大学には日本語と日本法を教えるコースが設置されており、そこの学生と法律の問題について話し合った。事前に幾つかの問題が示されており、私たち日本側とベトナム側に分かれて、それぞれの国の法律での対処の仕方、一般的な対処方法などを紹介し合った。ここでは、私が取り組んだ、友人に貸したお金が返ってこない時はどのように対処すべきか、という事例を基にどのようなことを行ったのかを述べていきたい。

ハノイ法科大学の学生と

まず、ベトナム側から幾つかの解決方法が出された。①弁護士を雇い裁判所に訴える②やくざを雇い「返せ、さもないと」と脅しを掛ける③何度言っても返してくれないようであればあきらめ2度とその人にはお金を貸さない、の3つである。その後、①が最も法律にかなった解決方法であり、②はよく用いられるが違法な方法である、との認識をベトナム側が発表した。
次に私の方から日本の民法の条文を紹介しつつ、日本でのこの問題の解決方法を紹介した。実はまだ契約法の分野は学修の途中であり、あまり詳しくは分からなかったのであるが、自分なりに債権と債務の話やなぜ貸したお金を返さなければならないのかを説明した。最後の質疑応答の時間では、「日本ではどんな場合でも裁判で争ってお金を返してもらうのか」という質問が出るなど、みんな日本の法律に関心を持っているようであった。まだ日本語を習って数年しかたっていないこともあって時々ベトナム語が飛び交っていたが、一生懸命に日本語と日本法を学ぶという姿勢は、私も見習わなければならないと感じた。

国家賠償法ワーキングセッション

翌28日には、実際の法整備支援の現場、国家賠償法のワーキングセッションに参加させていただいた。なお、ここに挙げてある条文の内容はまだドラフト段階のものであり、国会で正式に策定された条文でないことに留意していただきたい。
この国家賠償法ワーキングセッションでは、日本の法整備支援がどのように行われているのかを実際に体験することが出来た。例えば、国家賠償法第13条の「禁止事項」において、禁止事項を個条書きしているだけで、禁止に違反した時の法的効果が書かれていない点を指摘した法整備支援室の伊藤チーフ(検察官)が、「ここはおかしいから直せ」と頭ごなしに否定するような口調ではなく、「それでベトナムの人々が(条文を読んで)分かるのであれば良いが、第三者の観点から見れば、非常に分かりづらい」と言ったことに、単に法案を作成しそれを押し付けたり相手の考えを否定したりするのではなく、ベトナムの司法省などと協力しながら、ベトナム主体で法整備支援を行うという、日本の法整備支援の精神を感じ取ることが出来た。大法廷の様子
しかし、事前に渡されていた英文のドラフトを完ぺきに読み込むことが出来なかったために、伊藤チーフに「何か意見があれば、何なりとどうぞ」と言われた時に何も言えなかったのは非常に残念だった。今後、またこのような機会が与えられた時には、事前準備をより綿密に行ってから臨んでいきたいと思う。

活動成果

今回のインターンシップを通じて、今までは結び付くことのなかった法曹と国際協力との結び付きを体験し、今までの日本の支援としてありがちであった道路や建物の建設といった「ハコモノ支援」ではなく、法律や司法制度の充実を目的とした、言わば「ソフトな支援」である法整備支援の重要性を認識した。また、今回のインターンシップは、私の将来の進路をもう一度考え直すきっかけとなった。これまで私は、国際協力に関係する職業に就きたいと考え、その中でもよく取り上げられる開発経済の分野での職業に就いてみたいと考えていた。しかし、このインターンシップで「どのような分野でも国際協力になりうる」ということを認識させられた。
残された大学生活の中で、本当に自分がやりたい、研究してみたい分野から、どのようにして国際協力につなげていけるか、という視点でもう一度進路を考え直し、将来につなげていきたい。

草のみどり 224号掲載(2009年3月号)

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