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法学部
【活動レポート】三上 早紀 (政治学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(64) ベトナムで法整備支援を経験 弁護士として国際協力目指す

はじめに

法律、それは主権国家が成り立つ上での土台であり、ゆえにどの国にとっても必要不可欠な要素である。しかし、世界にはいまださまざまな理由によって、この土台が確立されていない国々が多く存在する。日本は、早くからこうした国々に対する法整備支援-すなわち、発展途上国が行う法令とその運用体制の整備を支援する活動であり、具体的には法典整備支援や法曹養成支援などを内容とする-を国際協力の一環として実施してきた。その対象国の1つが、ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)である。現在もベトナムでは、JICAから派遣された法曹三者が中心となって法整備支援事業が行われている。
将来、法律家としてこの事業に携わりたいと考えていた私は、法整備支援の「現場」を見るため、去年の夏に「やる気応援奨学金」をいただき、JICAの在ベトナム法・司法制度改革支援プロジェクト事務所で約2週間のインターンシップを行った。ここでは、インターンでの貴重な経験を紹介すると共に、そこから得られた幾つかの知見についても述べたいと思う。

なぜ、「法整備支援」なのか

大学入学当初、私は「将来、国際協力の現場で働きたい」という漠然とした思いを抱いていた。たまたま生まれた場所が違うだけで、日本で何不自由なく暮らす人間がいる一方で、日々の食べ物もなく、学校にも通えない人間が存在する。この現実に対する違和感と、それを自分の力で少しでも改善していきたい、そう思ったことがきっかけだった。しかし、何の専門性も持たない人間が出来ることなど高が知れている。逆にいえば、何か専門性を身につければそこからチャンスは広がっていく。
そんな時、私はたまたま手に取った雑誌で「法整備支援」という形態の国際協力を知った。国際協力といえば、草の根のNGO活動くらいしか思い浮かばなかった自分にとって、法律という道具を使って1つの国を丸ごと変えていくという支援の在り方は大変新鮮に映った。こうして、私は法律家としてアジア諸国の法整備支援に携わることで、世界をより良いものにしていきたい、という思いを強く抱くに至った。ただし、法整備支援にかかわるアクターは法曹三者だけではない。ほかにも学者やNGO、国際機関などが考えられるが、私は日本の弁護士としてかかわっていく道を希望している。それは、弁護士が最も行動の自由度が高く、組織に縛られない自由な発想が出来ると考えているからである。

インターンに参加した理由

法整備支援に高い関心を持つ私にとって、直接支援の現場に飛び込める今回のインターンは、この上なく魅力的なものに映った。自分のやりたい仕事について早めに見聞を広める良い機会だと感じたし、法整備の現状を知る機会はまたとないものであろうから、このチャンスを逃したくなかった。それに、以前に比べると浸透してきたとはいえ、いまだに法整備支援に尽力している法律家の絶対数は少ない。彼らの話を、しかも法曹三者それぞれから伺うことの出来る機会を逃したらこの先絶対に後悔すると感じ、参加を決意した。

インターンシップでの主な活動

インターンシップでは、ベトナムの首都ハノイに置かれているJICAの法・司法制度改革支援プロジェクト事務所に受け入れていただき、ここを拠点に活動した。この事務所には、日本から常に法曹三者が1人ずつ派遣されており、彼らが実質的な法整備支援活動を一手に引き受けている。この事務所での2週間のインターンの内容を大きく分けると、①専門家の先生方からの講義②各種セミナー、ワークショップへの参加③裁判傍聴の3つに分けられる。以下、それぞれについて紹介してみよう。

専門家の先生方からの講義

インターン期間中は、業務の合間を縫って、専門家の先生方からさまざまなレクチャーをしていただいた。レクチャーの内容は、主に、①法整備支援に関してと②ベトナムの法律・司法制度に関してに分けられる。
法整備支援に関しては、その概要やベトナムに対して日本が行ってきた支援の歴史などを通して、改めて日本とベトナムとの関係の深さを実感した。また、同じく法整備支援に携わるほかの支援国に関する情報も教えていただき、相対的に日本の支援方法(相手国の自主性の尊重)や支援における理念(日本法の押し付けはせずに、選択肢としての紹介・提示にとどめる)がいかに相手国のことを考えた、優れたものであるかを感じた。
ベトナムの法制に関するレクチャーでは、セミナーに参加した中での疑問点の解説や、ベトナム弁護士会の様子などを講義していただいた。ただ、ベトナムの制度説明に際して日本法との比較がなされる時に、そもそも自分が日本法の内容が分かっていないと痛感させられることが多く、非常にもどかしい思いをしたのが残念だった。

法整備支援の現場に飛び込む

法整備支援といっても、ベトナム側と一緒になって法律の条文を作り上げるわけではない。日本が長く支援に携わり、ある程度の基礎が出来つつあるベトナムにおいて、実質的な支援内容といえば、日本法の紹介が中心である。その目的は、日本の法律をそのメリットやデメリットも含めて紹介し、ベトナム側が自力で法案を作成する際の参考を提示することだ。
今回は、前半に日本の行政事件訴訟法をベトナム側に紹介するセミナー、後半にベトナム民法の改正に関するワークショップを聴講させていただいた。いずれも40-50人くらいのベトナム側法曹関係者と日本側の専門家が参加し、通訳を介してベトナム語と日本語で進められていた。ベトナム側の参加者が非常に熱心に質問や議論を行っていた姿が印象的だった。聴講を通して強く感じたのは、法律がまさに価値観の表出であるということだ。つまり法律は当該国の文化・社会制度と切っても切り離せない関係であることを実感した。
ベトナムの司法制度は、フランスの植民地時代(1887-1949年)にフランス法の影響を受け、その後社会主義モデルとしての旧ソ連法の影響を受けながら形成されてきた。だから所有権と占有権の概念があいまいだったり、物権と債権の概念はなかったり、という事態も生じる。また家族を重んじるベトナムの伝統から、今でも法律上の権利主体として世帯や組合といったものが存在する。国家体制や伝統に基づくこうしたベトナム法の特徴は、日本法を紹介されたからといっておいそれと変更出来るものでもないし、またベトナム法が日本法より劣っているわけでもない。ここで法整備を行う者に求められるのは、あくまでも〝オプションとして〟自国の法制度を紹介するにとどめる姿勢であろう。もちろん、援助国側が相手国の状況に合わせてあらかじめ法律案のドラフトを作成して、それをポンと渡してしまうことも可能だ。しかし、これではその後の運営で必ず支障を来す。どれだけ時間が掛かっても相手国側がその法律のメリットとデメリットをしっかり理解するまで辛抱強く説明を行い、その後相手国側の手で法律案の作成を行わせる。このステップを着実に踏むことで相手国の日本法と自国法に対する理解が深まり、施行後の運営もスムーズに進むだけではなく、日本の支援を卒業した後も自分たちの手で前に進んでいくための人材育成にもつながる。
専門家の方々のセミナーにおける姿勢は、以上に述べた〝オプションの提示〟を忠実に実行するものであったし、決して「こうすべきである」とか「こちらの方が良い」という言葉を口にすることはなかった。

詐欺事件の裁判を傍聴

インターン中に1度、ハノイ市内の裁判所で裁判を傍聴する機会があった。私が傍聴したのは詐欺事件の第1審であり、その雰囲気や進め方の日本との違いが非常に興味深かった。法廷そのものに関していえば、日本のように当事者と傍聴人のスペースがさくで厳密に仕切られていないことに非常に驚きを感じた。証言台の前に並んでいる長いすが一応の傍聴席であるが、刑事事件の被告あるいは民事事件の原告もこの傍聴席の最前列に座るため、私たちは当初、被告を傍聴人と勘違いしていたほどである。
また、ベトナムの裁判は職権主義的傾向が色濃く、法廷はあくまで捜査手続きの延長であると感じた。というのも、裁判官は裁判に臨む前に既に事件記録を検討し、自分なりの心証を形成しており、裁判はこの結論に対する裏付け的な意味合いで行われているように思ったからである。この辺りは被告人と検察官が対等な立場で裁判の主導権を取り、裁判所は公平・中立な第三者的立場で判断を下す、という日本の裁判構造との違いを強く感じた。

これに加えて、ベトナムでは司法権、中でも裁判官の独立が図られていない。例えば裁判官には法を解釈する権利がなく、法の適用を行う権限しか付与されていないので、条文に言及のないケースはいちいち最高人民裁判所の意見を仰ぐしかない。(これによって新たなケースが出現する度に条文が書き加えられていくので必然的に一般法が非常に長文化する傾向にある。)しかも、裁判官が法適用を誤り冤罪を生んだ場合、あるいは上級の裁判所で判断が覆った場合は、当該裁判官が個人的にその責任を問われてしまう。これによって裁判官の間に誤った判断をなすことへの萎縮が生じ、適正な判決を損なう可能性もある。
それから、日本のように起訴状一本主義を採っていないことも驚きだった。ベトナムでは、起訴と同時に取り調べにおいて得た全記録を裁判所に提出する。よって起訴状は日本の冒頭陳述と起訴状が一体化したような非常に長いものであり、これを検討することによって、裁判官は事前に一定の結論を持って裁判に臨むことになる。この点に関しても、予断排除の原則に基づき起訴に際しては起訴状のみを提出し、証拠を提出してはならないとする日本の考えと一線を画している。
しかも、ベトナムでは刑事事件においてすら、本人訴訟の割合が高く、それゆえに被告人の権利が適正に保護されているのかが疑わしいと感じた。今回私が傍聴したケースもこの本人訴訟の典型であり、被告は裁判官や検察官からの質問にすべて1人で受け答えをしていた。この点は、ほとんどすべての被告人と被疑者に対して弁護人(私選、国選問わず)が付く日本に比べて非常に遅れているという印象を受けた。ただし、今年に入ってから組織された全国的な弁護士連合会(日本弁護士連合会のベトナム版)の活動により、今後段階的に状況の改善がなされていくと思われる。

活動を通して考えたこと

本インターンシップを一言で言うなら「良い意味で期待を裏切られ続けた14日間」、これに尽きる。たった2週間だけのインターンで、しかも日常の業務を見学させてもらうだけなのだし、出来ることも、学ぶこともしょせんは限られているだろうと思っていた。しかし、14日間は想像以上に濃密で、かつ1日1日に色々なことがあり過ぎて、期間中は常に情報や考えが頭の中で洪水になっているような感じだった。ここでは少し時間を置いた今、私が強く感じていることを3点挙げたいと思う。

自分の価値観は絶対ではない

「自分の価値観を絶対とは思うな」ということは今までも言われてきたし、事前にJICAの東京事務所を訪問した際にも言われていたことであるが、その意味を身をもって痛感した。今回はベトナム法との比較を通して日本法を貫く価値観や考え方の筋が、ただ単に日本法のみで勉強するよりも良く理解出来た。また、表面的な法律論に終始しがちな法律の勉強も、こうしてほかの国の法律との比較を通じて学ぶと「どうしてこうした違いがあるんだろう」とか「違いがあるからには文化的、あるいは社会的なバックグラウンドが何か根本的に違っているんだろう。それはいったい何だろう」と知識欲がどんどんわいてくる。これは自分でもすごく意外だったが、その分、非常に能動的な学習が出来たと思っている。

国際的に活躍するということ

法律を使って国際的に活躍するということは、海外でも法曹資格を得て日本で弁護士として仕事をすること、のように思っていたが、そんな固定化されたイメージだけが活躍の在り方ではなかった。JICAの在ベトナム法・司法制度改革支援プロジェクト事務所に派遣されていたのは、日本で裁判官や検察官、あるいは弁護士として10年から15年のキャリアを積んでこられた方である。法整備支援を行うのは、日本の法律についての理論と実際を知った人間でないと本当に相手国のためになる整備は出来ないと実感した。つまり、日本でじっくりキャリアを積んでから、その経験を武器に外に出ていく道もあるのだ、ということが確認出来た。これから法曹になりたいと思う身としては、つい〝思い〟だけが先走ってしまって、長いスパンでのキャリアを考えることが出来なくなりがちだが、こういった方々を前にして、少し自分の描く法曹像に良い意味で楽観的なイメージを持つことが出来たように感じる。

現場の〝国益〟のとらえ方

外務省とJICA現地専門家の間での国益に関する考え方の違いも非常に印象深いものだった。JICAは外務省の管轄下にある。外務省はリアリスティックに日本の国益を追求する場所だと認識していたので、当然その下部機関のJICAもこういった国益概念に基づいて1人1人が現場に出ているのだろうと当初の私は考えていた。しかし、現地の専門家の方々は国益追求に寄与するためというような認識が薄く、これに驚かされたのはもちろん、今までの自分のステレオタイプな考え方が恥ずかしく思えた。本インターンシップに参加する前は、「国際協力は国益なんて抜きにして、ただ目の前の人を笑顔にするためにやっているんだ」といったたぐいの言葉を聞いて、どうせ奇麗事だろう、くらいにしか思えなかった。それよりもむしろ、JICAの活動は、国際協力という甘い言葉を借りて、その裏でシビアに日本にとってのメリットを追求し続ける外交政策の一環なのだろうと考えていた。
しかし、実際に彼らの活動を前にして、中途半端に知ったような考えをしていた自分が恥ずかしくなった。専門家の先生方は、本当に、心からベトナムの人々が、今後のベトナムにとってベストな選択を選び取れるように全力でサポートしていたし、そこに国益追求という計算は1分たりとも入り込む透きはないように感じた。そうした真摯で、かつ親身になってベトナムのことを思うそれぞれの活動が、今後の日本とベトナムの関係にプラスの影響を与えることは間違いないし、それが長期的に見れば、知らず知らずのうちに日本の国益にもかなうのだろうと感じた。

将来に向けて

インターンシップの期間中、非常に多忙であるにもかかわらず専門家の先生方は毎日、私たちを食事に連れていってくださった。食事中には、インターンシップに関係のある話題だけではなく、私たちの進路の話を聞いていただいたり、普段日本では聞くチャンスがないであろう法曹三者それぞれの立場から見た法律問題に関する意見を伺ってその違いに驚いたり、検察官・裁判官の業務や職場の様子について伺ったり、非常に新鮮で有意義な時間を過ごすことが出来た。

法整備支援はあくまでも幅広い法曹の仕事の中の1つにすぎない。現在JICAが中心となって行っている法整備支援事業は、遠くない昔にドイツやフランス、そしてアメリカから日本が享受した果実に対する恩返しである。その恩返しは、恩を受けた国にではなく、今援助を必要としている国に対して行う。これによって助け合いの連鎖反応が生まれ、信頼関係も構築される。今はまず法曹になる、という当面の目標に向かってひたすら勉強あるのみだが、法曹になり、しかるべきキャリアを積んだ後には、自分もそのスケールの大きな恩返しの一端を担えたら……。今はそう考えている。

終わりに

ベトナムで過ごした2週間の間には、とてもこのリポートには書ききれないほど多くの経験をし、多くのことを学んだ。最後になったが、このような貴重な経験を可能にした「やる気応援奨学金」に関係するすべての方々に対し、深く感謝したい。今後は、インターンシップで得た経験を生かし、より一層努力を重ねていきたいと思う。

草のみどり 238号掲載(2010年8月号)

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