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法学部
【活動レポート】内田 一就 (法律学科2年)

「やる気応援奨学金」リポート(40) ILOで労働問題をリサーチ インターンシップが起爆剤に

はじめに

今回、私は「国際インターンシップ」として、主にスイス・ジュネーブに本部を置く国際労働機関(ILO)にて研修活動を行った。ILOについては後述するのだが、インターンシップでの生活は毎日が非常に刺激的で多忙なものであった。私たちがジュネーブを訪れたのは8月で、ILO職員の多くは夏季休暇を取っていたにもかかわらず、横田洋三先生及びILO職員の三宅さんらの計らいで特別にILOにて研修をすることが出来た。今回、私たちが行った作業はILOで「日本における100号条約の現状」をリサーチして、その調査結果を基に英語でプレゼンテーションすることであった。100号条約とは同一労働に対する同一賃金・報酬に関する条約であり、主に職場での性別を理由とした差別を禁止している。

ILOとは

ILOは、世界の各地で生じている労働問題を解消するために日々活動している国連の専門機関である。第一次世界大戦後の1919年に工業化の進行により増え続けた労働者の人権を守るために設立された。ILO憲章の冒頭に示されているようにILOは「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することが出来る」と提唱し、その社会正義を実現するための手段として、労働基準の制定、適用の確保業務、そして三者構成主義による社会対話の強化を行っている。

研修内容

国際労働機関(ILO)本部

ILOは国際労働総会、理事会、国際労働事務局の三者構成になっており、私たちは国際労働事務局の国際労働基準局の職員として模擬的に調査をして、最終日には模擬総会にて発表を行った。ILO総会は会議をより公正に運営させるために、会議における権限を政府代表、使用者代表、そして労働者代表の三者に与えるという、三者構成主義を採っている。インターンシップでは私たちも実際に政府、使用者、労働者の3グループに分かれてリサーチを行った。この全員で6人いる政労使代表の中から、3人が各代表者として最終日に調査結果を発表した。ちなみに私は労働者のグループに属することになった。
そして、批准されたILO条約の実効性を保つための監視機関として条約勧告適用専門家委員会が存在する。専門家委員会とは個人の能力や業績による資格で選ばれた法律の専門家たちのことで、批准された条約が実際に守られているかを検証し、政府に直接質問状を提出する「直接請求」と条約の適用に関する問題についての見解を一般に公開する「意見」と呼ばれる2つの方法で問題の是正を求めている。今回ジュネーブに行った6人のうち3人は専門家委員として、模擬総会にて発表された調査内容についての見解を「意見」としてまとめる作業を行った。

「労働者代表」としての自分

私はパートナーと共に労働者代表として調査を始め、政府や使用者代表に対して日本の100号条約適用における問題点、改善点を指摘することに決めた。同一労働に対する同一報酬を考えるにあたって重要となるのが、いかに職場での差別対象となり易い女性労働者の権利を保障するか、ということである。
過去数年の意見を読み、リサーチを進めた結果、日本には根強い職場での女性差別が残っていて、ILOから改善を求められていることが明らかになった。ILOは、日本の長期間労働をすることが昇進に直結する「年功序列制度」に対する改善、今でも女性管理職が少ないこと、育児休業制度の不十分さを指摘している。確かに根強い差別とはいっても、女性を昇進させない、あるいは結婚・出産の際は離職を促す、などの目に見える差別(直接差別)は改善されてきている。しかし、根本的な男女差別の原因である目に見えない差別(間接差別)を日本は現在でも問題として抱えている。私たちは労働者代表として、労働における男女間の平等を実現するためにはどうすれば良いのか、と考えた結果、「育児休業制度」に注目することにした。
まず、日本の育児休業制度で問題となっているのは休業出来る期間が短く、育児休業中の手当が少ないことである。この問題の解決策を最終日のプレゼンテーションでどのように政府・使用者側に要求すべきか考えた結果、社会保障制度が進んでいるスウェーデンを参考にして、比較してみることに決定した。

直接話すからこそ深まる理解

ILOの女性職員であるショーナさんにインタビューを行い、スウェーデンと比較することに対してどう思うかと尋ねてみると、「それは良い視点だと思うわ。スウェーデンでは育児休暇を女性だけの問題ではなく、社会全体の課題として、一面的ではなく多面的な問題としてさまざまな角度からとらえているのよ」と教えてくれて、スウェーデンの育児休暇についての資料を渡してくれた。その資料によれば、スウェーデンには両親共に取得出来る育児休業制度があり、休業中の給与保障にしても日本の保障とは比べ物にならないほど進んでいるそうだ。

代表者グループとして発表した仲間たち

スウェーデンについての調査と並行して、私たちはなぜ育児休業制度が男性に普及しないのかを調べていた。日本では男性の育児休暇取得率は0.50%(2005年度厚生労働省調べ)という極めて皆無に近いデータが出ている。このことに加え、女性が働き易い環境を作るには何が必要か、ということを尋ねるために、今度は、現役の女性労働者であり、差別問題を専門としているILOの労働者活動局に勤めているNaomi Cassiererさんに直接アポイントメントを取ってインタビューを依頼した。彼女は男性に育児休暇が普及していないのは、「女性は育児、男性は仕事」という社会に強く根付いているステレオタイプ、そして男女の報酬格差が存在するからであると言っていた。このような風習が男性に育児休暇を取得することを阻害して、報酬の少ない傾向がある女性が結果的に育児のために仕事の継続を断念して、男性に依存する形になるのだと彼女は語ってくれた。
インタビューを通じてまず、私が思ったのは、育児休業制度を立法措置によって改善させる必要性である。女性だけに育児休業取得を押し付けずに、企業が男性の育児休業取得に対しても理解を深める必要があるのだと思う。そのためにも、法律という強制力を持つ方法で、男性が育児休業を取得し易い環境を整えること、それこそが、政府が検討すべきことではないだろうか。
更に、私が感じたのは、女性が多く従事する業務に対する過小評価をなくすことの重要性である。伝統的な社会の慣習や職場での雰囲気が差別の一要因であり、女性に対する偏見に満ちたステレオタイプを社会から払拭することが求められている。

自ら動く

ILO館内で記念撮影。中央が横田洋三先生

インターンシップを通して得られる有益な体験の一つとして、自ら動いて現場で働く方々から直接話を聞けるということがある。当初私は、インタビューの設定は現地に着くころには決まっているのだと甘く考えていたが、実際には、取材をする職員の選定からアポイントメントを取るまですべて自分たちで動かなければならなかった。最初は何度も電話で取材の申し込みを試みたが、夏季休業中で人が少なくて忙しいからか、なかなか承諾してもらえずに、次から次へと別の人を紹介されてしまった。「これではいつまでたっても取材が出来ない」と感じた私は、三宅さんのアドバイスもあり、直接スタッフのオフィスに訪問してアポイントメントを取ることに挑戦してみた。その結果、直接会って話をすることによって理解を得られたのか、ようやくアポイントメントを取ることに成功した。私は本来ここまで積極的に自分から行動をする方ではないので、この経験を通して、積極的に行動することの効果、そして大切さを実感することが出来た。

予想外の体験

今回の研修は、国際業務を学ぶために行ったインターンシップではあったが、それ以上に有益な体験が出来たと思う。研修を通して私は「与えられた短い時間の中でいかに、作業を効率良く行うか」ということを体で感じることが出来た。今回のインターンシップでは、本格的な研修は約1週間のみで、その期間中にもILO研修のほかにさまざまなNGOを訪れていたために、私たちは発表の準備をする時間が極めて少なかった。そこで、私たちは仲間と協力して作業を分担したり、移動中や宿舎に帰宅後、仲間と意見交換や相談を行ったりした。そして、何とか発表に間に合わせることが出来た。
このような体験を通して私は仲間と互いに助け合うと同時に、互いに競い合いながら仕事を進めていくことの大切さを再認識することに至った。また、当初私は国連で働くことは非日常的で華やかな仕事だと思っていたが、実際に業務の一部を見ることによって、意外と地道な事務作業が多く、私が想像していたいわゆる企業で行うような「通常の仕事」にも通じるところがあり、遠い存在のはずだった国際業務をより身近に感じることが出来た。私はこの地道な作業の繰り返しによって生まれた努力のたまものを見て、国際公務員の仕事は華やかだと感じていたのかも知れない。

将来の選択肢

私たちはILO以外にNGOの事務所も訪問したが、特に印象的だったのはWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)というNGOにおいて、企業の社会的責任などについてのレクチャーを受けたことであった。私は「国際的な仕事をしたい、それには国際公務員が一番の方法」と考えていたのだが、このレクチャーを通して、「企業を通して国際貢献をするのも良い選択肢かも知れない」と思うようになった。

ILOオフィスから見える美しいジュネーブの街

また、今回のインターンシップの主な作業であったILOでのリサーチを通して、私は日本の労働問題にも大きく興味を引かれることになった。もともと、私は移住労働者を始めとする労働問題に関心を持っていたのだが、日本の雇用に関する実情を調査するうちに、「どうすればこの問題を解決することが出来るのだろう」と考えると同時に、「労働問題は何て複雑で解決困難な事柄なのだろう」と思うようになった。例えば、男女間における同一価値労働・同一報酬の問題においては、男女の社会的立場を家庭という最小単位の社会から考え直し、職場での平等を目指す必要がある。しかし、社会全体に浸透した、長い間に出来上がった慣習を変えることは難しく、また、立法を通してこの問題を解決しようとしても、多種多様なケースと原因があるために、法律に規定することが非常に困難である。これらの問題を解消するためにはILOから政府に働き掛けるのも一つの方法ではあるが、実際に「国内で公務員として現場で奮闘するやり方も興味深いかも知れない」と私はジュネーブから帰国後に考えるようになった。

感謝と期待を胸に込めて

物事は色々な角度から見ることが重要である。それは職業選択においても同様で、さまざまな業種や組織で働く方々の話を聞き、それを基に自分の中で考えることは、自分に合った職業選択をするために大変有効であると感じた。私は今回のインターンシップを通して語り尽くせないほどの貴重な体験が出来たと思っている。そして、それを達成するために頂いた「やる気応援奨学金」には多大な感謝をすると共に、この体験を今後の大学生活の中で、自分がやりたいことを実現するためにはどのような職業に就くことが最適であるか、ということを考えるための参考にしていきたいと考えている。最後に、自分自身の成長を促す「起爆剤」として作用した今回のインターンシップに感謝してこのリポートを終えたい。

草のみどり 214号掲載(2008年3月号)

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