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法学部
【活動レポート】冨島 利央 (2009年度法律学科卒)

「やる気応援奨学金」リポート(63) アメリカで法曹の実務を体験 法律英語も学習し成果上げる

はじめに

私は将来、国際ビジネスロイヤーとして活躍したいと思っているが、これまで具体的な仕事の様子をイメージ出来ずにいた。そこで、アメリカの実務の様子を知り、そこから自己に不足している部分を認識し、今後の目標設定に役立てることを課題として、「やる気応援奨学金」にエントリーし、アメリカ、カリフォルニア州、サンディエゴに短期留学させていただいた。活動計画は主に、法律英語学習と法曹体験(ロースクールでの聴講、検察庁でのシャドーイング(職業体験・見学)、裁判見学・裁判手続き見学)から成り立っており、その成果を以下で述べたいと思う。

語学学校での法律英語学習

英語という環境に慣れること、法律に関連する英語をメーンに取り組むことでその後の法曹体験をスムーズに行うことを目的として、最初の1週間は、語学学校(American Communication English)にて、法律英語コースを履修した。月曜から金曜まで、2・3・3・2・2時間ずつの合計12時間の授業だった。スピーキングとライティングをメーンに、ケイ先生、マトソン博士の両名にマンツーマンで指導をしていただいた。

語学学校にて修了証書授与

具体的に、スピーキングの授業では、訴訟における弁論の基礎力を養成することを目標に、プレゼンテーションのスキルや、そこでの心得・呼吸法などを伝授していただいた。また、ライティングの授業では、ロースクール進学時に課されるアメリカの法曹適性試験(LSAT)の問題に取り組んだ。過去問を使用し、論理的な文章を書く上で注意すべき点などを教わりながら、実際に書いた小論文を添削していただき、再構成するというサイクルを繰り返した。合計で12時間と短い期間ではあったが、毎日小論文3本以上と、宿題が大量に出たため、机に向かっていた時間はずっと多かったと思う。また、一対一という環境で、気兼ねなく質問することが出来た点は、疑問をその場で解消出来たため、とても勉強になった。短い期間ながら、非常に内容の濃い日々を過ごすことが出来た。

アメリカのロースクール

次に、法曹体験として、ロースクール、検察庁及び裁判傍聴で経験したこと、学んだことをつづる。

ロースクールはCalifornia Western School of Law(CWSL)、University San Diego School of Law(USD)の2校に行き、キャンパスツアーと、憲法、不法行為、契約法などの授業に参加した。模擬法廷があったり、キャリアサポート体制が整っている点など、施設の面では、日本と共通する点が多かった。また、案内役を務めてくれた2年生(アメリカは3年間ロースクールに通う)のバイドゥさんによれば、アメリカにも「シケタイ」(予備校出版の教材)にあたるテキストが存在するらしく、ただ、授業に持っていくと教授から指導を受けるそうだ。

USDの外観

逆に、異なる点で印象に残ったのは3つ。1つ、ロースクールの入試形態。アメリカのロースクール入試は、GPA、LSAT、ステートメント(入試で課される課題文)で決まるようで、法律は課されない。論理的思考力が備わっているかに力点が置かれているようである。

2つ、司法試験の必須科目。カリフォルニア州は、憲法、物権法、契約法、不法行為法、民事手続法、刑法が必須で、ビジネス法などの科目は選択となる。合理的な印象を受けた。ちなみに、択一と事例の両方が問われるらしい。

3つ、司法試験の合格率。カリフォルニア州がニューヨーク州を抑えて、全米で最も難しい司法試験なのだが、それでも合格率は60%以上。もちろん、単純比較は出来ないが、やはり高く感じる。

更に、純粋に印象的だったことは、授業の雰囲気だ。いずれの授業も、ケーススタディーで、先生が質問をし、生徒が自主的に答えていくという、いわゆるソクラテスメソッドで行われていたのだが、とにかく授業中に質問がよく出る。そして、ミスを恐れない。その積極性に見習うところがあった。また、授業が始まるや否や、教室中にパソコンのキーボードをたたく音が響き渡ったのも印象的だった。

検察庁でのシャドーイング

サンディエゴの地方検察庁(District Attorney's Office…DA)にて、2週間半にわたりシャドーイングを行った。ホームステイ先の検察官ライス夫人にお願いし実現したものである。実際に、オフィスの一角で、机を1つ割り当てていただき、仕事の様子を見学させていただいた。

アメリカの行政区分は、郡、州、連邦の3つに分かれているようで、各行政区分に応じて管轄が分かれている。例えば、サンディエゴ郡に所属する者は、同郡内の事件を扱い、ロサンゼルス郡内での事件、カリフォルニア州の事件、連邦の事件を原則扱えない。もっとも、管轄を越えて仕事をする資格を与えられている場合は、例外的に扱えるようだ。

ところで、DAは、重大な犯罪(殺人、強盗、強姦など)を扱う検察官あるいはその組織のことを指す。これとは別に、市の弁護士(City Attorney)が存在し、彼らがそのほか一般の事件を扱っている。そして、一人の検察官が、一度に抱える事件数は多い。通常の検察官は、多い時で50-60件扱うそうだ。スーパーバイザーをしているライス夫人の場合、自分の事件が約一五件と、加えて監督している検察官の事件多数。したがって、膨大な量の資料に目を通さなければならない。非常にタフだが、強い責任感を持って仕事に臨んでいる様子を見て、刑事事件を扱うことの重みを感じた。

これまで、実務の仕事の様子をじかに目にする機会がなかっただけに、今回の経験は新鮮だった。オフィス内で法律用語が飛び交い、事件の方針を相談する様子を見聞きして、法に携わる仕事の様子を具体的にイメージすることが出来た点は大きな収穫だった。

裁判手続きの見学

シャドーイング期間中、DAに併設されているサンディエゴ郡裁判所(San Diego County Courthouse)にて、アメリカの司法手続きを理解すべく、裁判手続きを見学した。

多くは裁判傍聴であったが、複数の刑事事件と民事裁判を傍聴した。例えば、刑事事件としては、傷害事件、強盗事件、不法移民事件、薬物事犯、といったところである。弁護側は、reasonable doubt(合理的疑い。ごく簡単にいうと、検察官の描くシナリオに常識の範囲で疑いがあれば被告人は無罪となる。したがって、弁護人は訴訟において、この合理的疑いがあることを陪審員に訴える)を得るため、事細かに、手続きに不正はないか、証言に矛盾はないかといった点を突いていた。逆に、検察側は、どんどん異議を唱え、不適切な弁護にくぎを刺していた。日本の裁判は、終始ピンとした空気が流れている印象だが、アメリカの裁判は、緊張感の中に、時折ジョークが交じったりして、めりはりがあると感じた。

DAで着用した身分証

民事事件については、ある1つの事件の前半部分を傍聴した。おおよその事件の概要は次のとおりである。被告が、原告の所有する土地建物の隣で、深さにしてビル4階分にも達する、大規模な掘削工事を行い、そのため当該土地建物に亀裂を来すなどの損害を与えたとして、原告が不法行為に基づく損害賠償請求をしたというものだ。

事件の争点は、専ら被告に過失があったか、工事と亀裂などの損害との間に因果関係があるかという点にあったようで、原告側の弁護士はこれらがあることを立証するため、モニターやパネルなどを駆使しつつ、陪審員に向けて、視覚的に証拠を提示していた。

日本では、そもそも民事に陪審員裁判がなく、したがってそのようなアプローチを採る必要性がないから、その様子は新鮮だった。後日分かったところによると、原告勝訴、損害賠償額は2億円だったそうだ。賠償額の大きさに衝撃を受けた。

ところで、民事・刑事に共通して印象的だったことが2点ある。1点目は、市民が司法参加に対してあまり積極的ではないという点だ。刑事の陪審員の場合、1日当たり12ドルの手当てが支給されるそうだが、多くの市民は、仕事に支障が出るなどの理由で、陪審員になることを好まないのが現状だそうだ。陪審員選定手続きを見ていた時、陪審員候補者がその任務を外れることが決まると、皆にこやかに法廷を去っていったが、その様子が市民の低い意識を物語っていると思う。こうした現状に対して、「市民は、裁判をすることの意義を忘れている。大事な義務なのに」というライス夫人の意見が印象的だった。日本は市民の司法参加が始まったばかりであるが、同様の理由から裁判へ参加することにためらいを感じている人が多いと聞くので、仕事と司法参加との両立は世界共通の課題なのだと痛感した。

2点目は、民事・刑事を問わず、陪審員裁判が適用される場面においては、プレゼンテーション能力が裁判の行方を大きく左右するという点だ。いくらアメリカが訴訟大国とはいえ、陪審員はあくまで一般の方々から選ばれるわけで、法律に関して専門的知識を有しているわけではない。したがって、原告側や被告側が立証しなければならないことをいかに端的に示し、どれだけ分かりやすく説明出来るかで、特に民事において結果が左右されると感じた。

裁判日記

ここでは、裁判傍聴で取ったメモを基に、傍聴した裁判の内容や手続きを日記調で回想したいと思う。

裁判所見学初日、Motion(手続きの始めにあたる部分で、ディスカバリーの申請や、証拠調べ請求などを行う。要は、裁判のオープニングである)とPreliminary Hearing(予備尋問。陪審員裁判を適用するかなどを決定する)を見学した。前者は、流れ作業で次から次へと事件が処理されていた。後者は、マリファナを合法に所有している者から、被告人が購入したというケースで、警察官2人を証人として申請、尋問を行っていた。担当検事のローズさんとインターン中のUSDの学生さんと交流を持つことが出来た。

2日目、この日はサンディエゴ郡裁判所が休みだったため、近くの連邦裁判所にて4つの事件を傍聴した。1つ目は違法移民関連の訴訟で、被告人は、精神鑑定のためミズーリ州の病院へ移送されることとなった。2つ目は詐欺で、陪審員裁判だった。3つ目は、別の移民関連訴訟の判決部分で、検察側の懲役34カ月の求刑に対して、諸般の事情を考慮して30カ月の実刑に処するとのことだった。4つ目は、薬物事犯のMotionだった。

3日目、強盗事件を傍聴。陪審員裁判の導入部分で、検察官起訴状朗読、被告人意見陳述、それに対する検察側の反論があった。

4日目、午前に、スポーツジムの警備員に対する傷害事件の証拠調べを傍聴。午後に、民事事件の陪審員選任手続きを見学した。裁判長と弁護士の方々に、あいさつと質問をする機会を持つことが出来た。

5日目、前日の民事事件を引き続き見学。陪審員の選任手続きが終了し、口頭弁論期日に移った。両弁護士が陪審員に向けて、自己の主張、その理由、それを立証する証拠や証人はどのようなものであるかといった点を、モニターやパネルなどを利用しながら説明していた。

6日目、前々日から見学している民事事件を引き続き傍聴。被告側反対尋問が始まった。細かな反論から核心に迫る反論に移ったところで、休廷となった。

7日目、民事事件が休みのため、刑事事件の判決の様子を見学。陪審員裁判にて、有罪・無罪は既に確定しているので、非常に淡々としていた。その場で、被告人を刑務所へ行かせるか、執行猶予にするか決めているようだった。

これらがメモから再現出来た分の裁判傍聴記録である。辞書と六法をわきに置いて見学する中で、手続きの流れが具体的に見えただけではなく、日本との相違点も見え、とても勉強になった。

今回の活動より得た感想

以上が、活動を通じて学んだことであるが、まだまだ語り尽くせないほど、毎日新たな発見の連続で、生活面、語学面、法律面で非常に多くのことを勉強した。本当に充実した留学であった。

全体を通じた感想として、日本とアメリカは、思っていたよりも共通している面が多かったと思う。確かに、細かい慣習の面で違いはあるものの、こと法律の面に関しては、共通点が多かった。当初は、アメリカは不文法で、判例法によって成り立っているとの認識だったけれど、実際は多くの成文法があり、コード○○に違反するから、違法であるといった過程で思考していた。日本では、条文を出発点に、紛争を解決しようとするけれど、解釈の場面では、しばしば判例の規範を利用するわけで、結局のところ、法的思考というものは、欧米諸国と日本とでは共通なのかも知れないと、認識を改めた。

また、日本で学んだことを基に、アメリカの法律・法制度を考えてみた時、完全とはいかないが、ある程度のことは理解することが出来た。これは、自分にとって大きな発見であった。

そこで、国際ビジネスロイヤーになるため、今後自分が取り組むべきは、まず日本の法律を学ぶこと、更に、英語力を向上すべく英語に触れる機会を維持すること、この2点に尽きると確信した。今度は弁護士となって戻ってこようという強いモチベーションを得ることが出来、これから、ロースクールで勉強していく上で非常に良い経験をすることが出来た。

終わりに

私は将来、国際的な取引を行っている中小企業の法的支援をしていきたいと考えている。そんな中、今回の活動を通じて、アメリカの裁判官・検察官・弁護士の方々とつながりを持つことが出来、多くの知識を得ることが出来、また、将来のビジョンを得ることが出来た。本当に貴重なそして有意義な体験であった。

今後は、ビジョンを持って勉学に励み、国際ビジネスロイヤーとなって、世界と取引する企業をサポートし、今回得たものを少しでも社会に還元し、貢献したいと考えている。この活動は、その大事なきっかけになったと強く思う。

最後に、「やる気応援奨学金」の留学制度がなければ、このような貴重な経験をすることは出来なかったであろう。支えてくださった先生方や職員の方、ライス一家、家族、友人に心から感謝したい。

草のみどり 237号掲載(2010年7月号)

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